
茨城県 畠山俊三さん
ライナーノーツを見ると、「ポッペアの戴冠」は”欺瞞から生じた荒廃、裏工作、脅し、離縁、中傷、追放、殺人だらけのオペラ”とある。確かに、筋書きはギリシャ悲劇、シェークスピア悲劇も真っ青だが、美しい歌手が次々と登場し、美しい声で詠唱を繰り広げる舞台を視聴していると、筋書きなどどこへやら、天上の世界に行ったように陶然となった。
モンテヴェルディのオペラは「オルフェオ」の解説によると、初期のオペラである「モノディ”歌うように語る”」の範疇ということになるが、「ポッペアの戴冠」はモノディの集大成なのだろう。「オルフェオ」に比較して、器楽伴奏は極力抑えられ、チェンバロの音しか聴こえないといってよい。(このチェンバロが過不足なく素晴らしい)
このDVDの印象は「天上のオペラ」であるとともに、「浄化されたオペラ」「悟りのオペラ」「時世のオペラ」でもあると思った。
このオペラの台詞には多くの箴言が含まれている。また「死」という言葉が沢山でてくる。登場人物のそれぞれが自分の死を予感して、詠唱している場面が多々ある。恐らくこれは死を前にした(1642年完成)モンテヴェルディ(1567~1643)自身が自分自身と対話しながら作曲したのではないかと思われる。
したがって、視聴感として、オットーネの悲劇性や不倫者が愛を成就するという矛盾よりも「浄化」「悟り」といった印象が強く残った。
この作品を「天上のオペラ」という次元まで高めたのは演出家オーディの手腕によるところが大きい。
名歌手を揃え、その演出も見事。一例を上げると、第一幕後半(16)は台詞もリアルだがが、ポッペアとネローネの演技も生ナマしく、性愛さえ感じる。
舞台も第一幕は大きな球と太い柱だけという簡素さ。これがうまく活用されている。舞台、衣装、照明の統一感も素晴らしい。