
東京都 アダム・リヒトさん
なんといってもパウル・シェフラーの音楽教師が最高です。作曲家の直線的で(途中、理念と現実との間で揺れ動くシーンがありこの言葉が適切かどうかは分かりませんが)、誠実な人物像に対し、妥協的かつ小市民的な音楽教師、オペラに入る前の序幕には、作曲家の芸術理念に対立する「俗物」達が様々登場しますが、この音楽教師こそ(ツェルビネッタではなく)、最も作曲家と鋭く対立する人物像のように思われてなりません。作曲家の理念に共感を示す唯一の人物であるにもかかわらずです。序幕の大きなテーマである大衆の俗物性に対する「諷刺」という喜劇的性格が、音楽教師にも強く出ています。まさにお人よしで小市民です。給料の話を持ち出す点などその典型といえます。
このような人物に、本当に奥深く美しい、そしてなんといっても温もりのある声の持ち主であるシェフラー(このとき70歳近いとは到底信じられません)が、ぴったりはまっています。人のよさと素朴さから滑稽が自然に出ています。困り果てる際の、声の表現力など人間味溢れ見事です。意外な身長の低さや、年を取りくたびれた様子などもプラスに作用し、まさにホーフマンスタールが描いた音楽教師像そのものといえるのではないでしょうか。
このシェフラーだけでも、この映像の価値は十分にあるといえますが、加えてジェス・トーマスも最高です。「全く繊細に、殆ど少年のようでなければならない」(ホーフマンスタール)バッカス像とは、かけ離れてしまってはいますが、これだけ輝かしいテノールは、今では考えられません。